AI内製化

会社のAI活用、何から始める?最初の90日でやるべきことの全手順

公開: 2026年7月8日 著者: 藤岡 諒也

「AIを使わないとまずい気はしている。でも、何から手をつければいいかわからない」

中小企業の経営者から、いちばん多く聞く言葉です。ChatGPTの名前は知っている。ニュースでも毎日のように見る。それでも社内を見渡すと、使っている社員はほぼゼロ。この状態から何をすればいいのかを、この記事では最初の90日・月単位の手順に落とし込んで解説します。

先に結論を言うと、最初にやるべきことはツールの契約でも研修の手配でもありません。「経営者自身が2週間AIを触ること」と「AIを使う業務をひとつ選ぶこと」です。

会社のAI活用とは|ツール導入ではなく「業務で使われている状態」のこと

会社のAI活用とは、ChatGPT・Claudeといった生成AIを社員が日常業務で使い、文章作成・情報整理・確認作業などにかかる時間を減らす取り組みのことです。

ポイントは、アカウントの契約数ではなく「実際に業務で使われているかどうか」がすべてだという点です。全社員分のアカウントを配っても、誰も使っていなければAI活用が始まったとは言えません。逆に、たった1つの業務でも「AIを使うのが当たり前」になっていれば、それは立派なスタートです。

だからこそ、始め方の設計、つまり「順番」が結果を分けます。まず、多くの会社がはまる失敗の順番から見ていきます。

やってはいけない始め方3つ

①ツールの一括契約から入る

「まず環境を用意しよう」と全社員分の有料プランをまとめて契約する。一見正しそうですが、順番が逆です。使い方のイメージがない状態でツールだけ配っても使われず、月額費用だけが出ていきます。

ChatGPTもClaudeも無料の範囲で試せます。「使えた」という体験を先に作り、必要になってから契約を広げる。この順番なら無駄がありません。

②IT担当者に丸投げする

「パソコンに詳しいから」とIT担当者や総務にAI導入を任せるケースは非常に多いのですが、うまくいきにくい進め方です。

理由はシンプルで、AI活用はシステムの話ではなく業務の話だからです。「どの業務の時間を減らすか」「どの作業をAIに任せるか」を決めるのは業務の優先順位づけであり、それができるのは経営者だけです。担当者には現場全体を動かす権限もありません。IT担当者は心強い相談相手ですが、旗振り役は経営者が担う必要があります。

③一度の研修で終わりにする

外部講師を呼んで全社研修を1回開き、「あとは各自使ってみてください」。2週間後には誰も使っていない、という結末が待っています。研修で得た知識は、業務で使う場がなければ急速に消えていくからです。

研修は「点」であり、定着は「線」です。研修を開くこと自体は有効ですが、その後に続く仕組みとセットで設計されていなければ効果は残りません

最初の90日でやるべきこと(全体像)

3つの失敗はいずれも「順番」の問題でした。ここからは、失敗を避ける90日の手順を月単位で示します。

期間 やること 90日後から逆算したゴール
1ヶ月目 経営者自身が毎日AIを触る+対象業務をひとつ選ぶ 経営者が自分の言葉でAIを語れる
2ヶ月目 担当者1〜3人を巻き込み、選んだ業務で小さく回す 「楽になった」という声が社内に生まれる
3ヶ月目 ルールと共有の仕組みを作り、次のテーマを決める 選んだ業務でAIを使うのが「特別」でなくなる

1ヶ月目:経営者自身が触り、対象業務をひとつ選ぶ

最初の2週間は、経営者自身が1日10分AIを触ってください。うまく使う必要はありません。メールの下書き、会議メモの整理、社内向け告知文の作成といった、自分の仕事の中の「文章を書く場面」で試すだけで十分です。

経営者が先に触る理由は2つあります。ひとつは、自分の言葉で「これはうちの会社で使える」と判断できるようになること。もうひとつは、「社長が使っている」という事実そのものが、社員への何よりのメッセージになることです。

並行して、AIを使う対象業務をひとつだけ選びます。選ぶ基準は次の3つです。

  • 毎週(できれば毎日)発生する業務である
  • 「文章を書く・写す・整理する」が中心の作業である
  • 担当者が「面倒だ」と口にしている

典型例は、日報・報告書の文章化、問い合わせメールの返信下書き、会議の議事録整理です。シクミヤの導入事例でも、報告書作成にAIを取り入れて作成時間が75%減った例があります。「毎回発生する文章仕事」は、それだけ効果が出やすい領域です。

2ヶ月目:社員を巻き込み、小さく回す

2ヶ月目から社員を巻き込みますが、全員一斉には広げません。1ヶ月目に選んだ業務の担当者1〜3人に絞ります。

頼み方は具体的に。「AIを使ってみて」ではなく、「日報の下書きをAIにやらせてみてほしい。来週、感想を聞かせて」と作業と期限をセットで頼みます。経営者自身が1ヶ月触っているので、「私はこう使っている」と自分の画面を見せながら頼めるはずです。この説得力は、触っていない経営者には出せません。

そして週1回15分、「できた・できなかった」を共有する場を設けます。できなかった報告も歓迎してください。この段階の目的は成果ではなく、「楽になった」という本人の言葉をひとつ生むことです。その一言が、3ヶ月目以降に社内へ広がる種になります。

誰から巻き込むか・成功体験をどう社内に広げるかの詳しい設計は、経営者がAI社内展開で最初にやるべきことで解説しています。

3ヶ月目:定着の仕組みを作り、次のテーマを決める

3ヶ月目は「人の頑張り」を「仕組み」に置き換える月です。やることは3つです。

  • ルールを1枚にまとめる。「顧客名・個人情報・社内の数字は入力しない」「AIの出力は必ず人間が確認してから使う」。この数行で十分です。複雑な規程は要りません
  • うまくいった使い方を「型」として残す。効果のあった指示文(プロンプト=AIへの頼み方の文章)を、社内の誰もが見られる場所に貼っておく。次に始める人が最初からつまずかなくなります
  • 月1回の共有会を定例にする。うまくいった例・詰まった例を持ち寄る15〜30分の場。これがあるだけで「使い続ける空気」が保たれます

ここまでできたら、次の対象業務をひとつ追加します。90日で作った「選ぶ→小さく回す→型に残す」という流れ自体が、2つ目以降のテーマにそのまま使える会社の資産になります。

各月のつまずきポイントと対処法

時期 よくあるつまずき 対処法
1ヶ月目 経営者自身が3日で触らなくなる 「毎朝のメール下書きはAIから始める」など、既存の日課に固定する。上手に使おうとしない
2ヶ月目 社員の反応が薄い。「今のやり方で困っていない」と言われる 命令ではなく「実験」として頼み、結果を評価に使わないと明言する。うまくいった例は本人の言葉で共有してもらう
3ヶ月目 特定の1人だけが使う状態で止まる その1人を「推進役」として正式に位置づけ、社内の質問窓口にする。共有会を個人の熱意ではなく定例の仕組みにする

共通するのは、つまずきの原因が「AIの性能」ではなく「人と習慣」にあることです。裏を返せば、ITに強い会社かどうかは関係なく、進め方の設計次第でどの会社でも乗り越えられます。

セミナーの現場でよく出る質問から見える「最初の壁」

AI導入支援会社としてシクミヤが開催してきた法人向けAIセミナー(参加のべ50人以上)では、業種を問わず、ほぼ毎回同じ質問が出ます。

  • 「会社の情報を入れて大丈夫なんですか?」最も多い質問です。答えは「入れてはいけない情報を先に決めれば怖くない」。3ヶ月目に作る1枚ルールが、まさにこの不安への答えです
  • 「何を頼めばいいかわからない」ツールを前にして固まってしまうパターン。対象業務を先に決めてから触れば、頼むことは自動的に決まります。この記事が「業務選び」を1ヶ月目に置いているのは、この壁を先に消すためです
  • 「間違った答えが出たらどうするんですか?」AIの出力は「完成品」ではなく「下書き」と捉えるのが正解です。最終確認は人間。この前提を全員で共有すれば、間違いはリスクではなく確認作業のひとつになります

つまり、社員がAIを使い始めるときの壁は技術ではなく不安です。90日の手順には、この3つの不安への対処があらかじめ組み込まれています。

社内だけで難しいときは「教えてくれる伴走型」を頼る

ここまでの手順は、社内だけでも実行できるように設計しています。ただし、次のどちらかに当てはまるなら、外部の力を借りたほうが早く確実です。

  • 1ヶ月目で止まる(経営者が触る時間を取れない、対象業務をどれにすべきか判断がつかない)
  • 2ヶ月目で止まる(社員に頼んでも動かない、質問されても答えられず立ち消えになる)

外部を頼るときの基準はひとつです。「代わりにやってくれる会社」ではなく「自分たちでできるようになるまで教えてくれる会社」を選ぶこと。前者に頼むと、その場は片づきますが、支援が終わった瞬間に社内には何も残りません。商談では「支援が終わったあと、自分たちだけで続けられますか?」と聞いてみてください。この質問への答えで、その会社の型がわかります。

シクミヤはこれまで7社の中小企業を支援してきたAI導入支援会社です。社員の皆さんが翌日からAIを使い始める入口としての法人向けAIセミナー(60分×3回)と、この記事の90日をさらに先(社内だけで回る状態)まで、3ヶ月間伴走する仕組み化プログラムを提供しています(費用はいずれも個別見積もり)。

「何から始めるか」を、一緒に決めるところから

御社の業務を伺ったうえで、最初に選ぶべき対象業務と90日の進め方をご提案します。セミナーだけ・相談だけでも構いません。

まとめ

  • 会社のAI活用とは「業務で使われている状態」のこと。アカウントを配ることではない
  • やってはいけない始め方は「ツール一括契約から入る」「IT担当に丸投げ」「一度の研修で終わり」の3つ
  • 1ヶ月目は経営者自身が毎日10分触り、対象業務をひとつ選ぶ
  • 2ヶ月目は担当者1〜3人で小さく回し、「楽になった」という本人の言葉を生む
  • 3ヶ月目は1枚ルール・指示文の型・月1共有会で定着を仕組みにし、次のテーマへ進む
  • 社内だけで止まるなら、「教えてくれる伴走型」の外部支援を選ぶ

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最終更新: 2026年7月8日